「愛すべき娘たち」読了
よしながふみ著「愛すべき娘たち」読了。
ゆるくつながった登場人物たちについてのオムニバス形式短編集、と見せかけて統一テーマでの連作。タイトルにもある通り、「愛すべき」女性たちが各エピソードの中心にいる。
以下ネタバレ。
「愛すべき」はこの場合"lovely"ではなく"ought to be loved"の意だろう。「愛される権利は有しているはずの女性たち」。また「娘」という単語も必ずしも親子としての関係性での文意のみで現れるだけではなく、時には「若い女性」という意味のみで出てきていることもある。英題としてついている「All my darling daughters」は少々ミスリードに近いものがあるように思う。
この物語の中心にいるのは、呪われた女性たちである。あるものは「お前は不細工だ」と、あるものは「博愛たれ」と、あるものは「後進のためにも民間企業で働く女性で居続けて見せる」と、はては「男性はセックスよりオーラルが好きなんだ」と、様々な呪いの言葉に縛られた、愛すべき娘たち。
唯一呪いを受けずに育った(あるいは少なくともそのような描写がない)最初と最後のエピソードで主人公をしている雪子が気づく。
母というものは 要するに 一人の不完全な 女の事なんだ
呪いを放つほうも呪われているのかもしれない。*1
そして結局、誰一人として呪いから脱却できずに物語は続いていく。納得のいく結論、カタルシスのある問題解決、そういったものとは無縁に、淡々と、ほのかにもの悲しく。何気ない一言に傷ついたり、救われたりしながら。ライフ・ゴーズ・オン。