Arantium Maestum

プログラミング、囲碁、読書の話題

あの頃読んでた英語テックブログ

(注:あの頃というのは私が多感だった2000年代のことである)

最近マイクロソフトのRaymond Chenの「マイクロソフト社員がIBMに出向していた時に文化の違いに辟易してコーヒーメーカーに関して小さな反抗をした」というものブログ記事を見た。

devblogs.microsoft.com

そういえばこのOld New Thingというブログ、2000年代(正確には2000年代後半)にはたまに読んでたなぁと思い出して懐かしくなった。

懐かしくなったがてら、あの頃読んでた英語ブログをいくつか紹介しようと思う。

Old New Thing

devblogs.microsoft.com

前述のとおり、マイクロソフト社員のRaymond Chenが書いているブログ。2003年にブログが始まった時点でかなり長くマイクロソフトに勤めていたらしく、その頃からマイクロソフト昔話的なものを出していたようだ。それ以外ではWindows向けC++プログラミングのマニアックな内容などが多い。

すごいのは20年近くずーっとブログを続けていて、今もほぼ毎日といったペースで記事を書き続けていること。

印象に残っている、というか多分一番初めに読んだ記事はこの例外処理の話:

devblogs.microsoft.com

後述のJoel on Softwareで言及されてたところから飛んで読んだのが最初だった。

Consequently, when I write code that is exception-based, I do not have the luxury of writing bad code first and then making it not-bad later. If I did that, I wouldn’t be able to find the bad code again, since it looks almost identical to not-bad code.

というのは肝に銘じている。

あとはこのNotepadが1990年代後半にBest Web authoring tool賞を取ったけど、その時点で誰が書いたのか誰も知らなかったという話も好き:

devblogs.microsoft.com

しかしNotepadがBest Web authoring toolというのはなかなか牧歌的だ。

Joel on Software

2000年代のテックブログを代表すると言っても過言ではないはず。Joelは元マイクロソフト社員でTrelloなどを開発するFogcreek Softwareを創業。その後後述のCoding HorrorブログのJeff AtwoodとともにStack Overflowを作る。

www.joelonsoftware.com

Joelは落語よろしく面白い逸話を話の枕にして、技術思想的なトピックについて非常に長いのに読みやすい記事を量産していたので、テックブログのお手本のような存在だった。技術的な内容に関しては断定調で強く述べられているわりに必ずしも全般的に肯定できるものではないのだが、とにかく読み物として面白いし考えさせられる。

好きな記事だけでもたくさんありすぎてすべて紹介はできないが、強いて選ぶとすれば「プログラミングにおける抽象化は必ずどこかでレイヤーが漏れるので、下のレイヤーを理解する必要はあるよ」というこの記事:

www.joelonsoftware.com

そして「コーディングスタイルでバグがわかりやすいようにしよう」という記事:

www.joelonsoftware.com

後者はハンガリアン記法の歴史とApp/System Hungarianの流儀の違いなども説明されていて面白い。

Coding Horror

Stack Overflowのもう一人の創始者Jeff Atwoodのブログ:

blog.codinghorror.com

Joelは記事が読み物として完成しているのに対して、こちらはどちらかというと普通のブログ的。プログラマとしてもBASICから叩き上げで、新卒でMSに入ったJoelのようなCSエリートという感じではない。その分安心して読めるところもある。

特に印象に残っているのは「プログラマはこれを読め」リスト:

blog.codinghorror.com

あらかた買って読んだので、私はそういう意味ではCoding Horrorに多大な影響を受けていると言えそう・・・。

Stevey's Blog Rants

AmazonGoogleの開発者Stevey Yeggeのブログ:

steve-yegge.blogspot.com

記事が信じられないほど長い。Joelほど単体の読み物として完成されておらずまた内容は独断と偏見が強い印象ではあるのだが、その分独特の切り口があってぐいぐい読ませる。

好きな記事は(やはりたくさんあるが)「Javaが狂信的なOOP言語でいろいろおかしい」という話:

steve-yegge.blogspot.com

そして「Lispは理想の言語であるが故に実際に存在するLisp実装はすべてLispとして認められない」という話:

steve-yegge.blogspot.com

あと、このブログには載っていないがSteve Yeggeの文章として有名なのはGoogleにいた時に書いた「GoogleAmazonに比べていろんなことを上手くやっている会社だが、唯一ダメなところはプラットフォームというものがわかってないことだ」という記事:

Stevey's Google Platforms Rant · GitHub

やはり過激な断言調で小気味が良い、が実際のところはどうなんだろうか。そしてやはり長い・・・

Secret Diary of Steve Jobs

最後はテックブログと言っていいのかどうか怪しいが、テック産業の面白ゴシップ話として読める「スティーブ・ジョブズが書いている体でアップルや周辺のテクノロジー企業の話を書く」というブログ:

www.fakesteve.net

けっこう長い間、本当は誰が書いてるのか謎だった覚えがある。

好きな記事はマトリックスに絡めてスティーブ・ジョブズやアップルのマーケティング戦略を語っている記事:

www.fakesteve.net

そしてマイクロソフトスティーブ・バルマーがYahooを買うかも、という話が出ていた時に「バルマーも頭はいいんだから失敗するのがわかりきっているけど、古いタイプの経営者だからやめられないんだ」と解説していた記事:

www.fakesteve.net

スティーブ・ジョブズが放言しまくる、という体で無責任かつ意地の悪い人物評や組織評ばかりなのだが、そのぶん"Art doesn't have to be true like a theorem. It can be true in other ways." (Tom Stoppard)という感じでハッとさせられるような視点があって面白かった。